インサイダー取引規制その10(会社関係者等)
7.会社関係者等インサイダー取引規制の要件その1 会社関係者等(続き)
(B)会計帳簿閲覧等請求権を有する株主等【当該権利の行使に関し知つたとき】(166条1項2号)
会計帳簿閲覧等請求権を有する株主等は
の3つに分かれます。これらの株主、普通出資者又は社員等が法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含みます)であるときはその役員等を、これらの株主、普通出資者又は社員が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含みます。
(a)当該上場会社等の会社法433条1項に定める権利(会計帳簿閲覧等請求権)を有する株主
当該上場会社等の会社法433条1項に定める権利(会計帳簿閲覧等請求権)を有する株主は、総株主の議決権ないし発行済株式の3%以上を有する株主で、共同で保有する場合を含みます。
(b)優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者
優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者については、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令48条により
と定められています。
(c)会社法433条3項に定める権利(親会社社員の会計帳簿閲覧等請求権)を有する社員等
会社法433条3項に定める権利(親会社社員の会計帳簿閲覧等請求権)を有する社員等については、同項に
と規定されています。
(d)当該権利の行使に関し知ったとき
当該権利の行使に関し知ったときとは、当該権利行使の結果知った場合のほか、権利行使と密接に関連する行為により知った場合を含み、権利行使のための準備・調査・交渉等の過程で知った場合もこれにあたるとする見解が有力です(注1)。重要事実を知った方法は問わない点は1号の場合と同様です。なお、権利の行使に関し知ったときに該当しない場合や3%を有しない株主も、情報受領者に該当する可能性はあるので注意する必要があります。
(注1)横畠裕介「逐条解説インサイダー取引規制と罰則」(商事法務研究会)1989年38頁
(C)法令に基づく権限を有する者【当該権限の行使に関し知つたとき】(166条1項3号)
法令に基づく権限を有する者は、上場会社等に対し、法令に基づく権限を有する者をいい、許認可権限・調査権限などの行政権、国政調査権などの立法権、文書提出命令、差押・提出命令などの司法権に関するものが含まれるほか、地方公共団体に属する権限、法令の委任を受けて検査等を行う民間団体等の権限も含まれます。当該権限の行使に関し知ったときとは、当該権限の行使の結果知ったときのほか、当該権限の行使と密接に関連する行為により知った場合を含むとする見解が有力です(1号2号の場合と同様)(注2)。
(注2)横畠裕介「逐条解説インサイダー取引規制と罰則」(商事法務研究会)1989年39頁
(D)契約締結者又は締結交渉をしている者であって、当該上場会社等の役員等以外のもの【当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったとき】(166条1項4号)
(a)平成10年改正と契約締結交渉者
当初は契約締結者のみが規制されていましたが、平成10年の証取法改正により、契約締結交渉をしている者、交渉に関し知ったとき、が規制対象に加えられています。
(b)契約の内容等
契約締結者又は締結交渉をしている者については、契約内容は問わず、重要事実を知ることを内容とする契約に限定されないとする見解が多く、また、契約は書面でなくともよい(口頭によるものを含む)と解されています。秘密保持契約なども、ここでいう契約に含まれます。
(c)役員等
契約締結者等が法人であるときはその役員等を、法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含みます。
(d)契約の締結・交渉・履行に密接に関して知ったとき
当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったときとは、契約の締結・交渉・履行自体によって知った場合だけではなく、契約の締結・交渉・履行に密接に関連する行為によって知った場合を含むとする見解が有力な点は1号ないし3号の場合と同様です(注3)。また、重要事実を知った方法は問わない点も同様です。
(注3)横畠裕介「逐条解説インサイダー取引規制と罰則」(商事法務研究会)1989年42頁
(e)当該上場会社等の役員等以外のもの
契約締結者等は「当該上場会社等の役員等以外のもの」とされておりますので、1号の役員等に該当する場合にはさらに4号の契約締結者等に該当するものではないことになります。この点について、役員等に該当する者が、上場会社等と契約を締結しており、その者の職務とは関係なく、当該契約の締結・履行等に関して重要事実を知った場合には、「職務に関し知ったとき」という要件を欠くため1号の適用対象ではないことになりますが、この場合であっても「役員等」に該当することには変わりがないため、4号の適用もないことになるか否かが問題となります。この点については、1号の職務に関し知ったといえない場合には4号の適用対象となりうるとする見解も有力ですので(注4)、かかる見解に従っておくほうが妥当と思われます。たとえば、会社財産の処分に関して会社の代理権を有する顧問弁護士(顧問契約を締結している弁護士)が、当該処分とは関係なく、顧問業務に関して重要事実を知ったような場合がこれに該当します。
(注4)服部秀一「インサイダー取引のすべて」(商事法務研究会)2001年27頁
(E)第2号又は前号に掲げる者であって法人であるものの役員等【その者の職務に関し知ったとき】(166条1項5号)
その者が役員等である当該法人の他の役員等が、第2号(会計帳簿閲覧等請求権を有する株主等)又は前号(契約締結者等)に定めるところにより当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知った場合です。法人の場合に限られますので、法人以外の場合には、情報受領者に該当するかが問題となります。職務に関し知ったときの意義は、1号の場合と同様です。
http://igi.jp/link2.html(金商法等の法令関係リンク)
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(B)会計帳簿閲覧等請求権を有する株主等【当該権利の行使に関し知つたとき】(166条1項2号)
会計帳簿閲覧等請求権を有する株主等は
(a)当該上場会社等の会社法433条1項に定める権利(会計帳簿閲覧等請求権)を有する株主
(b)優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者
(c)会社法433条3項に定める権利(親会社社員の会計帳簿閲覧等請求権)を有する社員等
の3つに分かれます。これらの株主、普通出資者又は社員等が法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含みます)であるときはその役員等を、これらの株主、普通出資者又は社員が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含みます。
(a)当該上場会社等の会社法433条1項に定める権利(会計帳簿閲覧等請求権)を有する株主
当該上場会社等の会社法433条1項に定める権利(会計帳簿閲覧等請求権)を有する株主は、総株主の議決権ないし発行済株式の3%以上を有する株主で、共同で保有する場合を含みます。
(b)優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者
優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者については、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令48条により
(会社関係者となる協同組織金融機関の普通出資者)
第48条 法第166条第1項第2号に規定する内閣府令で定める者は、中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)第41条第3項(同条第5項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に定める権利を得た信用協同組合及び同法第9条の9第1項第1号の事業を行う協同組合連合会の普通出資者並びに労働金庫法(昭和28年法律第227号)第59条の3に定める権利を得た労働金庫及び労働金庫連合会の普通出資者とする。
と定められています。
(c)会社法433条3項に定める権利(親会社社員の会計帳簿閲覧等請求権)を有する社員等
会社法433条3項に定める権利(親会社社員の会計帳簿閲覧等請求権)を有する社員等については、同項に
会社法433条3項
株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、会計帳簿又はこれに関する資料について第1項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
と規定されています。
(d)当該権利の行使に関し知ったとき
当該権利の行使に関し知ったときとは、当該権利行使の結果知った場合のほか、権利行使と密接に関連する行為により知った場合を含み、権利行使のための準備・調査・交渉等の過程で知った場合もこれにあたるとする見解が有力です(注1)。重要事実を知った方法は問わない点は1号の場合と同様です。なお、権利の行使に関し知ったときに該当しない場合や3%を有しない株主も、情報受領者に該当する可能性はあるので注意する必要があります。
(注1)横畠裕介「逐条解説インサイダー取引規制と罰則」(商事法務研究会)1989年38頁
(C)法令に基づく権限を有する者【当該権限の行使に関し知つたとき】(166条1項3号)
法令に基づく権限を有する者は、上場会社等に対し、法令に基づく権限を有する者をいい、許認可権限・調査権限などの行政権、国政調査権などの立法権、文書提出命令、差押・提出命令などの司法権に関するものが含まれるほか、地方公共団体に属する権限、法令の委任を受けて検査等を行う民間団体等の権限も含まれます。当該権限の行使に関し知ったときとは、当該権限の行使の結果知ったときのほか、当該権限の行使と密接に関連する行為により知った場合を含むとする見解が有力です(1号2号の場合と同様)(注2)。
(注2)横畠裕介「逐条解説インサイダー取引規制と罰則」(商事法務研究会)1989年39頁
(D)契約締結者又は締結交渉をしている者であって、当該上場会社等の役員等以外のもの【当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったとき】(166条1項4号)
(a)平成10年改正と契約締結交渉者
当初は契約締結者のみが規制されていましたが、平成10年の証取法改正により、契約締結交渉をしている者、交渉に関し知ったとき、が規制対象に加えられています。
(b)契約の内容等
契約締結者又は締結交渉をしている者については、契約内容は問わず、重要事実を知ることを内容とする契約に限定されないとする見解が多く、また、契約は書面でなくともよい(口頭によるものを含む)と解されています。秘密保持契約なども、ここでいう契約に含まれます。
(c)役員等
契約締結者等が法人であるときはその役員等を、法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含みます。
(d)契約の締結・交渉・履行に密接に関して知ったとき
当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったときとは、契約の締結・交渉・履行自体によって知った場合だけではなく、契約の締結・交渉・履行に密接に関連する行為によって知った場合を含むとする見解が有力な点は1号ないし3号の場合と同様です(注3)。また、重要事実を知った方法は問わない点も同様です。
(注3)横畠裕介「逐条解説インサイダー取引規制と罰則」(商事法務研究会)1989年42頁
(e)当該上場会社等の役員等以外のもの
契約締結者等は「当該上場会社等の役員等以外のもの」とされておりますので、1号の役員等に該当する場合にはさらに4号の契約締結者等に該当するものではないことになります。この点について、役員等に該当する者が、上場会社等と契約を締結しており、その者の職務とは関係なく、当該契約の締結・履行等に関して重要事実を知った場合には、「職務に関し知ったとき」という要件を欠くため1号の適用対象ではないことになりますが、この場合であっても「役員等」に該当することには変わりがないため、4号の適用もないことになるか否かが問題となります。この点については、1号の職務に関し知ったといえない場合には4号の適用対象となりうるとする見解も有力ですので(注4)、かかる見解に従っておくほうが妥当と思われます。たとえば、会社財産の処分に関して会社の代理権を有する顧問弁護士(顧問契約を締結している弁護士)が、当該処分とは関係なく、顧問業務に関して重要事実を知ったような場合がこれに該当します。
(注4)服部秀一「インサイダー取引のすべて」(商事法務研究会)2001年27頁
(E)第2号又は前号に掲げる者であって法人であるものの役員等【その者の職務に関し知ったとき】(166条1項5号)
その者が役員等である当該法人の他の役員等が、第2号(会計帳簿閲覧等請求権を有する株主等)又は前号(契約締結者等)に定めるところにより当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知った場合です。法人の場合に限られますので、法人以外の場合には、情報受領者に該当するかが問題となります。職務に関し知ったときの意義は、1号の場合と同様です。
http://igi.jp/link2.html(金商法等の法令関係リンク)
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