インサイダー取引規制その5(民事責任)
5.インサイダー取引規制違反の効果その4 民事責任(続き)
(C)上場会社等に対する責任
上場会社等に対する責任については、役員、従業員、従業員、代理人、契約締結者、株主、法令に基づく権限を有する者、情報受領者など、行為者の属性に応じて考える必要があります。
まず、取締役その他の役員は、会社に対して善管注意義務・忠実義務(会社法330条、民法644条、会社法355条)を負っていますが、インサイダー取引それ自体が直接会社に損害を与えるわけではないので、直ちに善管注意義務・忠実義務違反による責任(会社法423条1項)を負うものではないと考えられます。ただし、役員が会社の業務または財産に関してインサイダー取引を行ったことによりかいやに罰金が科されたような場合には、会社に損害賠償責任を負う場合もあると思われます(注1)。また、役員のインサイダー取引違反により会社の信用が毀損され会社に損害が生じたような場合も、善管注意義務・忠実義務違反により、会社に損害賠償責任を負う場合があると思われます。
次に、従業員や代理人の場合は、契約(雇用契約、委任契約等)に基づく善管注意義務を負っていますので、基本的に役員と同様に解することができると考えられます。
また、契約締結者については、会社との契約における定めに従うことになると思われます。特別の定めがあればそれに従い、善管注意義務を負う関係にある場合には役員と同様に解することになり、それ以外の場合には上場会社等に対し責任を負うものではないと考えられます。契約締結交渉者、株主、法令に基づく権限を有する者、情報受領者については、直接の契約関係等がなく、上場会社に対して責任を負うものではないと考えられます。ただし、これらの者についても、その者のインサイダー取引違反により会社の信用が毀損され会社に損害が生じたような場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことはありうると思われます。
(2)上場会社等の責任
上場会社等が重要事実等の公表を遅滞しまたは怠ったために、インサイダー取引が行われた場合には、公表の遅滞ないし懈怠により損害を与えたものとして、上場会社等が(インサイダー取引を行った者以外の)他の投資家に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負うかが問題となりますが、この場合、不法行為が成立するためには、上場会社等による重要事実等の公表の遅滞ないし懈怠が違法である必要があります。
公表の遅滞ないし懈怠については、適時開示の問題として考えると、適時開示は、証券取引所の規則等に基づいて行われているものであるため、それをもって直ちに違法と考えるのは困難と思われます。ただし、会社情報開示の責任者である代表取締役社長の保有株式を売り抜けさせるために、取締役が金員でデフォルト情報の開示を故意に遅延させていたような場合は、遅延の間に当該会社の有価証券を買い付けた者の会社に対する損害賠償を認めてもよいとされています(服部秀一「インサイダー取引のすべて」(商事法務研究会)2001年316頁)。このように悪質性が強い場合には、違法と評価され、上場会社等が不法行為に基づく損害賠償責任を負う場合もあると思われます。
他方、公表の遅滞ないし懈怠について、上場会社等の有価証券報告書、有価証券届出書等の法定開示書類の虚偽記載等が認められるような場合には、虚偽記載等に基づく損害賠償責任を負うことになります。
(3)役員の欠格事由・従業員等の社内処分
インサイダー取引規制違反の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日(執行猶予が付されている場合は執行猶予期間が満了したとき)から2年を経過しない者は、会社の取締役、監査役、執行役になることができません(会社法331条1項3号、335条1項、402条4項)。したがって、インサイダー取引規制違反の罪で有罪判決を言い渡された会社の取締役、監査役、執行役は、その地位を失うことになります。
また、取締役、監査役、執行役、従業員等は、会社の社内規定に基づく処分を受けることになります。
http://igi.jp/text.html
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(C)上場会社等に対する責任
上場会社等に対する責任については、役員、従業員、従業員、代理人、契約締結者、株主、法令に基づく権限を有する者、情報受領者など、行為者の属性に応じて考える必要があります。
まず、取締役その他の役員は、会社に対して善管注意義務・忠実義務(会社法330条、民法644条、会社法355条)を負っていますが、インサイダー取引それ自体が直接会社に損害を与えるわけではないので、直ちに善管注意義務・忠実義務違反による責任(会社法423条1項)を負うものではないと考えられます。ただし、役員が会社の業務または財産に関してインサイダー取引を行ったことによりかいやに罰金が科されたような場合には、会社に損害賠償責任を負う場合もあると思われます(注1)。また、役員のインサイダー取引違反により会社の信用が毀損され会社に損害が生じたような場合も、善管注意義務・忠実義務違反により、会社に損害賠償責任を負う場合があると思われます。
次に、従業員や代理人の場合は、契約(雇用契約、委任契約等)に基づく善管注意義務を負っていますので、基本的に役員と同様に解することができると考えられます。
また、契約締結者については、会社との契約における定めに従うことになると思われます。特別の定めがあればそれに従い、善管注意義務を負う関係にある場合には役員と同様に解することになり、それ以外の場合には上場会社等に対し責任を負うものではないと考えられます。契約締結交渉者、株主、法令に基づく権限を有する者、情報受領者については、直接の契約関係等がなく、上場会社に対して責任を負うものではないと考えられます。ただし、これらの者についても、その者のインサイダー取引違反により会社の信用が毀損され会社に損害が生じたような場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことはありうると思われます。
(2)上場会社等の責任
上場会社等が重要事実等の公表を遅滞しまたは怠ったために、インサイダー取引が行われた場合には、公表の遅滞ないし懈怠により損害を与えたものとして、上場会社等が(インサイダー取引を行った者以外の)他の投資家に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負うかが問題となりますが、この場合、不法行為が成立するためには、上場会社等による重要事実等の公表の遅滞ないし懈怠が違法である必要があります。
公表の遅滞ないし懈怠については、適時開示の問題として考えると、適時開示は、証券取引所の規則等に基づいて行われているものであるため、それをもって直ちに違法と考えるのは困難と思われます。ただし、会社情報開示の責任者である代表取締役社長の保有株式を売り抜けさせるために、取締役が金員でデフォルト情報の開示を故意に遅延させていたような場合は、遅延の間に当該会社の有価証券を買い付けた者の会社に対する損害賠償を認めてもよいとされています(服部秀一「インサイダー取引のすべて」(商事法務研究会)2001年316頁)。このように悪質性が強い場合には、違法と評価され、上場会社等が不法行為に基づく損害賠償責任を負う場合もあると思われます。
他方、公表の遅滞ないし懈怠について、上場会社等の有価証券報告書、有価証券届出書等の法定開示書類の虚偽記載等が認められるような場合には、虚偽記載等に基づく損害賠償責任を負うことになります。
(3)役員の欠格事由・従業員等の社内処分
インサイダー取引規制違反の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日(執行猶予が付されている場合は執行猶予期間が満了したとき)から2年を経過しない者は、会社の取締役、監査役、執行役になることができません(会社法331条1項3号、335条1項、402条4項)。したがって、インサイダー取引規制違反の罪で有罪判決を言い渡された会社の取締役、監査役、執行役は、その地位を失うことになります。
また、取締役、監査役、執行役、従業員等は、会社の社内規定に基づく処分を受けることになります。
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