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大量保有報告制度その1

1.大量保有報告制度の概要

大量保有報告制度は、

(1)上場会社等の株券等を5%超保有する者は、大量保有報告書を提出しなければならない
(2)大量保有報告書提出後、株券等保有割合が1%以上増減した場合その他大量保有報告書の記載事項に重要な変更があった場合には変更報告書を提出しなければならない

という制度です。

大量保有報告制度は、株価に影響を及ぼしやすい上場会社等の株券等の大量保有に関する情報を投資家に対して迅速に提供することにより、市場の公正性、透明性を高め、投資者の保護を図ることを目的として、平成2年に導入されました(比較的近年になって導入された制度であるため、金商法上、第2章の3、27条の23から27条の30までと、章番号も条文番号も「枝」番号つきです)。

2.大量保有報告制度における課徴金制度の開始

従来は大量保有報告書の不提出等には、課徴金制度の適用はありませんでしたが、平成20年12月12日から施行された改正金融商品取引法により、大量保有報告書制度にも課徴金制度が適用されています(注1)。

大量保有報告制度に関して課徴金が課される場合は、以下の場合になります。

(1) 不提出:大量保有報告書又は変更報告書を提出期限までに提出しない場合(金商法172条の7)
(2)虚偽記載: 重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている
 (A)大量保有報告書
 (B)変更報告書
 (C)大量保有報告書・変更報告書の訂正報告書
を提出した場合(金商法172条の8)

3.課徴金の額

課徴金の額は、大量保有報告対象株券等の発行者が発行する株券等の「時価総額の10万分の1」とされています。保有する株券等の割合・数等に関係なく時価総額の10万分の1となります。金融庁のサイトでは、1兆円の時価総額の企業で課徴金の額は1000万円という例が挙げられていますが(注2)、いまや日本の企業で時価総額1兆円を超えているところはわずか50社弱しかありません…。もう少し刻んでいくと、時価総額1000億円で100万円、時価総額100億円で10万円、時価総額10億円で1万円ということになります。

4.大量保有報告書等の不提出と行政庁の裁量

大量保有報告書・変更報告書の不提出(出し忘れ)は少なくないと言われており、従来は遅れて提出する際に詫び状を添える等して提出してきましたが、今後は、不提出が明らかになった場合には、課徴金が課せられることになります。課徴金制度においては、例えば「大量保有報告書又は変更報告書(略)を提出しない者があるときは、内閣総理大臣は、(略)その者に対し、(略)課徴金を国庫に納付することを命じなければならない」(金商法172条の7)等と規定されており、課徴金を課すか否かにつき行政庁の裁量は認められない(はずな)ので(注3)、期限を過ぎて大量保有報告書・変更報告書を提出した場合には、提出期限までに提出していない以上、課徴金が課せられることになるはずです。自主的に提出した場合には、課徴金減算規定の適用の余地はあるとしても(注4)、例えば期限の翌日に提出したような場合には課徴金を課するのは酷と思われるケースもありそうです。これまでのところ、大量保有報告制度に関する課徴金納付命令は出されていないようですが(注5)、今後どのような運用がなされるのか要注目です。

行政庁の裁量については、今回の課徴金制度改正について議論がなされた金融審議会金融分科会第一部会法制ワーキング・グループの討議資料でも検討の対象とされていますが(注6)、今回の改正では裁量は認められていません。同資料は裁量を認めることについて、積極・消極の両論を併記しており、積極的な見解の根拠として、違反行為に対し、例外なく課徴金の賦課がなされる枠組みの下では、行政の目的と手段が必ずしも比例していない事例も生じるのではないか、という点を挙げています(注7)。消極的な見解の根拠として、裁量を認めると、課徴金を課すか否か、それが裁量の範囲内か否かの判断が必要となり、課徴金制度の迅速性・効率性が阻害されるのではないか、その結果、刑事罰とは別に課徴金制度を設けた趣旨が没却されるのではないか、さらに、裁量の範囲が拡大しすぎると、判断基準が「非難可能性」「責任の重さ」などになり、「刑事罰との二重処罰」とされる可能性が高くなるのではないか、という点を挙げています。

「金融審議会金融分科会第一部会法制ワーキング・グループ報告〜課徴金制度のあり方について〜」法制ワーキング・グループにおける討議資料19頁〜20頁
討議資料3
(課徴金制度等に関するその他の論点)
機_歡Ф眄度等に関するその他の論点
1. 違反行為に対し課徴金を課さない場合を設けることについて
現行、金融商品取引法上の課徴金制度においては、違反行為に対して「内閣総理大臣(金融庁)は課徴金を納付することを命じなければならない」こととされており、課徴金納付命令を発するか否かについて行政庁に裁量がない。
この点、独占禁止法上の課徴金制度についても、同様に、課徴金納付命令を発するか否かについて行政庁に裁量がない。
他方、公認会計士法上の課徴金制度については、違反行為に対して課徴金納付命令を行うことを原則としつつ、一定の場合に課徴金の納付を「命じないことができる」こととされている。

顱飽稟森坩戮紡个掘⇔祿阿覆課徴金の賦課がなされる枠組みの下では、行政の目的と手段が必ずしも比例していない事例も生じるのではないか、との考え方があり得るが、どのように考えるか。

一方、

髻鵬召鵬歡Ф眷蕊嫐仁瓩砲弔い董行政庁の裁量を認めた場合、違反行為の認定に加えて裁量の範囲内の判断が必要となり、制度の迅速性・効率性が阻害されることとならないか、
鵝砲修侶覯漫行政庁の措置として課徴金制度を導入した趣旨・目的が没却されることとならないか、
堯忘枸未糧楼呂あまりに拡大した場合、その範囲内のどの水準を実際に賦課するかの判断基準は、「非難可能性」「責任の重さ」などに求めざるを得なくなり、「刑事罰との二重処罰」とされる可能性が高くなるのではないか、

との考え方もあり得るが、どのように考えるか。

仮に、一定の裁量を認める場合、不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目して、これに対する制裁として課徴金を課すものではないことを担保する等の観点から、どういう場合に課徴金を課さないかを明定する必要があると考えられるが、課徴金を課さない場合として具体的にどのような場合が考えられるか。


(注1)http://www.fsa.go.jp/policy/m_con/20081128.html
(注2)https://www.edinet-fsa.go.jp/download/ESE140031.pdf
(注3)「金融審議会金融分科会第一部会法制ワーキング・グループ報告〜課徴金制度のあり方について〜」(http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20071218-1/02.pdf)の法制ワーキング・グループにおける討議資料においても、行政庁の裁量はないものとされています。
(注4)課徴金減算制度については別エントリー参照。
(注5)平成21年2月12日付けで、EDINET(http://www.edinet-fsa.go.jp/)において「シティグループ・グローバル・マーケッツ・リミテッド、シティグループ・グローバル・マーケッツ・インク及びシティグループ・グローバル・マーケッツ・フィナンシャル・プロダクトに係る大量保有報告書・変更報告書について」が適時開示されている旨が告知され、投資家の注意を喚起している事例が注目されます。
(注6)(注2)と同じ資料です。
(注7)いわゆる比例原則に基づくものです。(注2)の討議資料3頁(討議資料1(総論)3(2))に比例原則についての解説があります。

(大量保有報告に関する課徴金についての関連条文)
(金融商品取引法)
(大量保有・変更報告書を提出しない者に対する課徴金納付命令)
第172条の7 第27条の23第1項、第27条の25第1項又は第27条の26第1項、第2項、第4項若しくは第5項の規定に違反して、大量保有報告書又は変更報告書(以下この章において「大量保有・変更報告書」という。)を提出しない者があるときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、その者に対し、第1号に掲げる額に第2号に掲げる数を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
1.当該提出すべき大量保有・変更報告書に係る株券等(第27条の23第1項に規定する株券等をいう。次条において同じ。)の発行者(同項に規定する発行者をいう。以下この条及び次条において同じ。)が発行する株券又はこれに準ずるものとして内閣府令で定める有価証券の当該提出すべき大量保有・変更報告書の提出期限の翌日における第67条の19又は第130条に規定する最終の価格に、当該翌日における当該発行者の発行済株式の総数又はこれに準ずるものとして内閣府令で定める数を乗じて得た額(当該価格がないときは、これに相当するものとして内閣府令で定めるところにより算出した額)
2.10万分の1

(虚偽記載のある大量保有・変更報告書等を提出した者に対する課徴金納付命令)
第172条の8 重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている大量保有・変更報告書等(大量保有・変更報告書又は第27条の25第4項(第27条の26第6項において準用する場合を含む。)若しくは第27条の29第1項において準用する第9条第1項若しくは第10条第1項の規定による訂正報告書をいう。以下この章において同じ。)を提出した者があるときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、その者に対し、第1号に掲げる額に第2号に掲げる数を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
1.当該大量保有・変更報告書等に係る株券等の発行者が発行する株券又はこれに準ずるものとして内閣府令で定める有価証券の当該大量保有・変更報告書等が提出された日の翌日における第67条の19又は第130条に規定する最終の価格に、当該翌日における当該発行者の発行済株式の総数又はこれに準ずるものとして内閣府令で定める数を乗じて得た額(当該価格がないときは、これに相当するものとして内閣府令で定めるところにより算出した額)
2.10万分の1
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