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インサイダー取引規制その1(総論)

1.インサイダー取引の概要と禁止の趣旨

インサイダー取引規制(金商法166条、167条)は、「会社関係者の禁止行為」ないし「公開買付者等関係者の禁止行為」として、以下のような行為を禁止しています。

(1) 上場会社等又は公開買付者等の役員等の、上場会社等又は公開買付者等と一定の関係を有する者が
(2) 当該上場会社等又は公開買付等関係者等の重要事実を知って
(3) その公表前に
(4) 当該上場会社等又は公開買付け等の対象会社の株券等の
(5) 売買等を行うこと

インサイダー取引が禁止される根拠(あるいはそもそも禁止されるべきか否か)については、さまざまな考え方がありますが、実務上は、証券市場の公正性及び健全性に対する一般投資家の信頼確保のために禁止されていると理解していれば足りると思います。

2.インサイダー取引規制違反の効果その1 違反の効果と成立要件の解釈

インサイダー取引規制に違反すると、刑事罰に処せられるか、課徴金(行政処分)が課せられることになります。これらのインサイダー取引の「効果」は、インサイダー取引の様々な「要件」の解釈に影響します。インサイダー取引について解説する場合は、まず「要件」から説明していくのが一般的ですが、インサイダー取引の「効果」が「要件」の解釈に影響していることから、まず「効果」と事例から説明していきます。また、インサイダー取引について民事上の責任を負うこともありえますが、民事上の責任については、特別な規定が設けられていません。民事上の責任については、刑事罰と課徴金について説明した後に説明することにします。

(1)刑事罰
具体的な刑事罰の内容と事例を見ていく前に、まず刑罰法規としてのインサイダー取引規制の特徴(効果が要件の解釈に及ぼす影響)について説明します。インサイダー取引規制の違反には、刑事罰が課されているので、インサイダー取引規定は、刑罰規定ということになり、他の刑罰法規同様、不当に処罰範囲が広がらないように「罪刑法定主義」の観点から厳格な解釈がなされるべきです。しかし、実際には、判例上、インサイダー取引の成立要件の解釈においては、かなり実質的な解釈が行われています。これは、そもそもインサイダー取引としての立件は難しく、その範囲は限定されていますが、その難しいところを乗り越えて実際に立件されるケースというのは、比較的悪質なケースが多く、言わば当罰性が高いため、解釈上の「工夫」がなされているものと思われます。したがって、インサイダー取引規制の解釈をするにあたっては、このことに十分注意する必要があります。

(2)課徴金
では、課徴金制度はインサイダー取引の要件の解釈にどのような影響を及ぼすでしょうか。数年前から、インサイダー取引規制違反に課徴金(行政処分)が課せられるという制度が導入されており、実際に課徴金が課せられるケースも多くなっています。刑事罰が課せられるに至るケースは、前述のとおり、比較的限定されていますが、行政処分である課徴金は、一般的に、刑事罰に比べ、必要とされる証拠も少なく、課徴金の金額が例えば数万円程度でも課せられている事例がある(平成20年11月7日に公表された株式会社ヴァリックの株券に係るインサイダー取引に対する課徴金納付命令で課せられた課徴金は5万円でした。)ことからもわかるように、刑事罰が適用される場合よりも、かなり幅広く課せられる可能性があります。かかる課徴金納付命令の決定がなされるにあたっては審判手続が行われますが、審判においては、審判の対象となる「被審人」からインサイダー取引の事実と納付すべき課徴金の額を認める旨の答弁書が提出されるケースがほとんどです。つまり、被審人はインサイダー取引とされた事実関係を争わないので、たとえインサイダー取引の成立要件を充足するか否か不明確な点があったとしても、インサイダー取引に該当するものとして取り扱われることになります。その意味では、インサイダー取引の成立要件を解釈するにあたっては、課徴金制度が導入されたという側面からも、やや幅広に考えておく必要もありそうです。

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